映画評-ブラッドダイヤモンド- 小林尚朗

明治大学軍縮平和研究所 『軍縮地球市民』 2007年夏号に寄稿したものを転載

 舞台は西アフリカの南西端に位置するシエラレオネ。「血塗られたダイヤ」の物語は、穏やかな朝を迎えた漁師村から幕を開ける。教育熱心なメンデ族の漁師ソロモン・バンディー(ジャイモン・フンスー)は、成績優秀で親思いの息子ディア・バンディー(カギソ・クイパーズ)が将来医師になることを夢見ている。その日も希望を抱きながら、いつも通り息子が学校へ向かうのを見送り、漁に出かける。そのはずであった・・・。




 1990年代末、シエラレオネでは政府軍と反政府軍(革命統一戦線=RUF)との間で激しい内戦が続いていた。映画のなかの漁師村は、その穏やかな朝にRUFの襲撃に見舞われることになる。突然の襲撃になす術もないまま、ソロモンはなんとか家族を逃がすことに成功するが、自らはRUFに捕らえられてしまう。「カバ(大統領)に投票できなくさせてやる」と叫びながら、捕らえた村人の腕を次々と鉈で切り落とすRUFの兵士。そしてソロモンの順番がやってくる。しかし、「コイツは使えそうだ」という理由で、彼はダイヤモンドの採掘場に送られることになる。
 この映画の謳い文句に、「5つめのC」というものがある。これは、ダイヤモンドを購入する際に大切だとされている「4つのC」、つまり「COLOR(色)」、「CUT(カット)」、「CLARITY(透明度)」、「CARAT(カラット)」に加えて、もう1つのCが存在することを示している。それは「CONFLICT(紛争)」のCである。
 「紛争ダイヤモンド」とは、シエラレオネに限らず、サブサハラ・アフリカの紛争地域で違法に取引され、反政府武装勢力などの資金源となっている「血塗られたダイヤ」を指している。ロンドンに本拠を置くNGO、グローバル・ウィットネスによれば、1991〜2002年のシエラレオネ内戦中に、RUFは年間1億2500万ドル相当ものダイヤモンドを採掘していたという。映画のなかでシエラレオネ産の「紛争ダイヤモンド」は、隣国のリベリアを経由し、世界のダイヤ原石取引の8割を占めるベルギーのアントワープへ輸出されている。実際に、リベリアのチャールズ・テイラー大統領(当時)は、シエラレオネのダイヤモンド取引に関する利権と引き替えにRUFの武装や訓練を支援したとして、人道に対する罪や戦争犯罪の容疑でハーグの国際刑事裁判所で公判を受けている(07年6月現在)。

 RUFのダイヤモンド採掘場で働かされるソロモン。発見したダイヤモンドをくすねようとした“同僚”が目の前で殺されるなか、家族との再会のために黙々と作業をこなしている。ところが、ある日ソロモンは巨大なピンク・ダイヤモンドを発見し、それを密かに土のなかに隠す。その後、ソロモンは採掘場を急襲した政府軍に捕らえられ、首都フリータウンの刑務所に投獄される。
 フリータウンという名称は、人類史のなかでも画期的な出来事にその由来を持っている。シエラレオネは、15世紀半ばにポルトガル人、16世紀半ばにはイギリス人が上陸するなど、古くからヨーロッパの進出を受けてきたが、18世紀末になると、イギリスが解放奴隷を移住させて自由の町、つまり現在の首都であるフリータウンを建設した。フリータウンは、奴隷としての悲運を過ごしてきたアフリカの人々にとって、いわば解放と自由の生地である。もっとも、それによって真の自由を手にしたわけではない。イギリスは19世紀に入ると、シエラレオネの沿海地方を植民地、内陸地方を保護領とし、この地を西アフリカ植民地政策における拠点としたのである。
 ソロモンが投獄されたフリータウンの刑務所には、「紛争ダイヤモンド」の密売人であるダニー・アーチャー(レオナルド・ディカプリオ)が密輸に失敗して投獄されていた。アーチャーは巨大なピンク・ダイヤモンドの存在、その隠し場所をソロモンだけが知っているという話を耳にする。釈放されたアーチャーは、怪しげなルートを使ってソロモンを釈放させ、ピンク・ダイヤモンドの在処を聞き出そうと試みる。巨大なピンク・ダイヤモンドは、アーチャーが暗黒の世界から足を洗うために十分なシロモノであった。頑なに口を閉ざすソロモンを「家族の救出のため」という口実で説得している最中に、フリータウンもRUFの襲撃に見舞われることになる。自由の町における惨劇と、変わり果てた姿は、あまりに痛々しい。

 アーチャーは、行きつけのバーで知り合ったアメリカ人ジャーナリストのマディー・ボウエン(ジェニファー・コネリー)のツテを使い、ソロモンを家族が収容される難民キャンプに連れて行く。マディーは、「血塗られたダイヤ」の真相を解明するために、密売人であるアーチャーからの情報提供と引き替えに、彼に協力したのであった。しかし、難民キャンプで家族との再会を果たしたソロモンを待っていたのは、息子ディアがRUFに連れ去られたという事実。ディアはRUFによって洗脳と訓練を受け、少年兵のリーダー役に“抜擢”されていたのである。
 かくして、アーチャー、ソロモン、マディーの3人は、それぞれ「自由」、「家族」、「真実」という異なる目的を抱きながら、ピンク・ダイヤモンドを追い求めることになる。

 この映画は、アーチャーとマディーの関係のように、重いテーマにも恋愛話を差し込むところはいかにもハリウッド映画である。しかし、「紛争ダイヤモンド」、「少年兵」、そして「戦争ビジネス」など、現実に存在する多くの問題を理解するのに極めて有効な内容と言える。出演者・スタッフの映画への意気込みも十分に伝わってくる。

 ILO(国際労働機関)によれば、18歳未満の児童労働者は世界で2億4600万人、実に世界中の子どもの6人に1人になる(ちなみに、インドではダイヤモンドの研磨作業における児童労働も問題となっている)。そのうち30万人が少年兵といわれ、その大部分は誘拐などによる強制的なものである。RUFの少年兵は5000とも1万とも言われているが、前述のテイラー元リベリア大統領の罪状の1つも、少年兵の徴集となっている。RUFの場合、全兵力のおよそ半分を少年兵が占めていたと推測されている。映画のなかでも少年を「殺人マシーン」に仕立て上げる様子がリアルに描かれており、目を背けることは許されないシーンの1つである。
 少年兵の問題は、内戦が終われば自然に解決するというものではない。武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)というプロセスのなかでもっとも困難なことは、社会復帰と言っても良い。映画のなかのディア少年は、映画のストーリーが終わった後にも苦しみ続けているのである。犠牲者である彼らを手厚くケアすることが必要で、実際に国際機関やNGOはそれを実施している。しかし、彼らから被害を受けた人々の心情も複雑なものである。アナン国連事務総長(当時)も、少年兵を法廷で裁くべきと考えていた。

 映画のなかで、アーチャーを支援し、また利用する大佐(アーノルド・ボスルー)が登場する。アーチャーにとってかつての恩人であるが、縁を切りたい相手でもある。大佐は南アフリカの“民間”軍を率いており、アーチャーを支援するためにRUFに空爆を仕掛けるシーンもある。 ニュー・インターナショナリスト誌(MAY 2004)によれば、RUFと戦う政府軍を支援するため、実際にアメリカ政府は民間軍事サービス企業(PMCs)を利用していた。インターナショナル・チャーター・インコーポレイテッド・オブ・オレゴン社(ICI社)は、アメリカ軍がコミットするにはリスクが大きく好ましくないと思われる危険地帯に赴く契約を結んでいる企業の1つであり、定期的にRUFを急襲していた。南アフリカのエグゼクティブ・アウトカムズ社などもその1つであり、シエラレオネにおいてアメリカ政府の意向で戦っていた。日本の国内では戦争ビジネスといえば兵器産業というイメージが強いが、世界ではPMCsが急速に台頭している。その現状を目の当たりにできるのもこの映画の見所の1つである。

 紛争ダイヤモンド問題は、00年12月の国連総会の決議を経て、03年1月にキンバリー・プロセス認証制度(KPCS)の施行ということで解決への一歩を踏み出した。KPCSを簡潔に言えば、「紛争ダイヤモンド」の輸出入を防ぐために、正規の未加工ダイヤモンド原石について「紛争に関わりがない」ことを各国政府が証明するものである。これは、「5つめのC」を重視する姿勢を世界各国とダイヤモンド業界が形に表したことを示している(グローバル・ウィットネスやアムネスティ・インターナショナルなどはその不備なども指摘しているが…)。
 石弘之(『子どもたちのアフリカ』岩波書店)によれば、世界のダイヤモンド市場を独占してきた南アフリカのデ・ビアス社は、その高価格を維持するために、ヤミ市場に流入するシエラレオネ産のダイヤモンドを高値で買い取っていたという。その代金はRUFが武装するための資金源となり、悲惨なシエラレオネの内戦を〝支えて〞いたことになる。これを踏まえれば、ダイヤモンド業界がKPCSに取り組むことは、企業の社会的責任(CSR)という観点から当然求められる行動なのである。
 また消費者としても、購買活動、つまりお金を支払うという行為が、市場ではその商品に賛成票を投じることを意味していると自覚しなくてはならない。つまり、売れるものは生き残るのが市場の掟なのである。これはなにもダイヤモンドに限った話ではない。グローバル化が進むなかで世界中の商品を入手できるようになった消費者は、世界中の問題に気づかぬまま荷担することになりかねないのである。
 シエラレオネの内戦は、00年11月に政府とRUFとの間で停戦合意がなされ、02年1月には武装解除が終了、同年3月には国家非常事態の終了が宣言された。その後、周辺国へ逃れていた難民の帰還も始まり(周辺国の内戦悪化というプッシュ要因もあるが)、再建に向けたプロセスも動き出している。
 とはいえ、06年になってもシエラレオネは、国連開発計画(UNDP)が発表している人間開発指数(HDI:長命で健康な生活、教育、人間らしい生活水準という、人間開発の概念の3つの側面を簡略化した数値)を見ると、177カ国中で176位という厳しい状況を抜け出せていない。また、家族を殺されたり腕を切り落とされた記憶が残る祖国に戻ることを拒んでいる者も少なくないという。
 映画『ブラッド・ダイヤモンド』は、日本人が日常で思いを馳せにくい様々な問題を強烈に訴えかけてくる。本来ならば人々を豊かにするはずの資源が人々を悪夢に陥れるのはあまりに不幸である。「血塗られたダイヤ」を、アフリカの人々にとって「希望のダイヤ」へと変えることができるのは、炭素をダイヤに変えるような自然の力ではなく、人間の行動なのである。
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by kobayashi_seminar | 2007-09-24 00:01 | 近況報告 | Comments(0)


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